Special Interview 前編
“世界中から最高峰のコーヒー豆を選りすぐり香り高い珠玉の一杯で人々を幸せに”

音と映像の世界で本物を追求するヒビノ。50年以上の歴史をもとに音楽業界で活動してきた老舗メーカーだが、この冬ハイエンドなコーヒー豆のみを取り扱うスペシャルティコーヒー専門店『EBONY COFFEE』とのコラボレーションによりオリジナル・コーヒーを販売した。

コーヒーに込めた想いや強いこだわり。その詳細を探るべく『EBONY COFFEE』に伺ってきた。中根夫婦で営むコーヒー専門店、そこには優しい面持ちとは裏腹に、コーヒー作りに対しては一切の妥協なく、熱いパッションが注ぎ込まれる。

苦労した点は? という質問に対して「もちろん責任感はありましたが、苦労というふうに感じたことはなかったですね。テーマをいただいて試行錯誤する瞬間は何よりも楽しく幸せなんです」と笑う。そこには真摯に上質なコーヒー豆と向き合いながらも自分達が楽しむ姿があった。


 

_まず、『EBONY COFFEE』の歴史について教えてください。

中根さん(以下N):9年前にオープンしました。もともとコーヒーが好きで全国各地の珈琲屋を巡るのがライフワークでした。行った店をノートにメモしたりして、数えてみると910店舗ほど行きましたね。そんなある日「スペシャルティコーヒー」との出会いがありまして。世田谷の千歳船橋にある『堀口珈琲』さんのコーヒーの、あまりの美味しさに衝撃をうけたのです。それが人生における転機となりました。

もともと将来はカフェをやろうかと思っていたのですが、最高の1杯を出すためには、何を追求すれば良いのか考えるようになったのです。果たして本当にカフェなのかと。出した結果が「最高の素材を仕入れて最高の状態で焙煎する」。つまりコーヒー豆屋さんとしてやっていこうと思い開業しました。


_910店舗もの喫茶店巡りはすごい数ですね。衝撃を受けたスペシャルティコーヒーはどのような味の違いがあったのでしょうか?

N: 初めて出会った時に衝撃を受けたのは、その圧倒的な“雑味のなさ”でした。逆に言うと良質なスペシャルティコーヒー以外のものは必ず雑味があります。一般的にいう渋みやえぐみと呼ばれるもの。それをやわらげるためにミルクや砂糖を入れるかたもいらっしゃいますよね。それまで飲んでいたコーヒーは、温かいうちは飲めるけど冷めると渋みが出てきたり、たくさん飲むと胃がもたれることもありました。

もともと私は体が強くて、珈琲は何杯飲んでも大丈夫だと思っていたのですが、1日中飲んでいると限界がありました。ただ良質なコーヒーの出会いとともにその悩みがなくなったんですよね。何杯飲んでも胃がすっきりしている感覚でした。

香りがよく個性的で、雑味もなく体にもやさしい。ここが他の珈琲とは圧倒的に違うところです。


_スペシャルティコーヒーは貴重なものなんですね。認定はどこかがやっているのでしょうか?

N:はっきりと定義づけするのは困難です。なぜならスペシャルティコーヒーの協会は世界中にいくつも存在し、それぞれ独自の判断基準があるからです。ただし共通して言えるのは、香味に関する基準を持っていることです。一見当たり前のように感じますが、じつはスペシャルティコーヒー以外は香味の審査がありません。生豆の欠陥(未熟、カビ、石の混入等々)の大小や豆粒のサイズ、生産地の標高など。つまり香味に言及してないので、おいしいという保証がないのがその他のコーヒーです。
対してスペシャルティコーヒーは、 たとえば香り、フレーバー、余韻といった「香味」を細かく採点します。



_スペシャルティコーヒーは世界中で作られているのでしょうか?

N:そうですね、ワインでよく耳にする「テロワール」ってありますよね。コーヒーも同様に、気候や土壌、地形など、環境によって味が大きく変化します。たとえば良い土壌で適切な栄養を与え、標高が高く昼夜の寒暖差が激しい環境下で育ったコーヒーチェリーは、身がしまって濃縮感や豊かなコクが生まれる可能性が増えていきます。
世界各国それぞれの環境に適したテロワールの中で、スペシャルティコーヒーは生産されています。

_『EBONY COFFEE』で扱う豆はどこのものでしょうか?

N:コーヒーも農作物なので野菜や果物などと同じように旬があり、その時に最も質が高いと判断した生豆を世界中から仕入れるため、都度ラインナップは変わりますが、東アフリカ、中南米、オセアニア、東南アジアなど生産地はさまざまです。もちろんすべてスペシャルティコーヒーです。



_よくコーヒーでケニア産、エチオピア産は耳にしますね。

N:はい、ただどの国でも品質はさまざまです。たとえば一言で「日本米」と言っても産地や品種などによって品質が違いますよね? 同様にたとえばケニアの中でも当然質に差があって、一概にケニア産だから確実に上質というわけではないのです。
そのため、私たちは流通の履歴など生産地が明確な「トレーサビリティー」を大切にして、高品質なコーヒー豆を仕入れています。たとえばコーヒーの生産国で有名な「グァテマラやエチオピアが入っているならおいしい」とイメージする方もいらっしゃいますが、これらが入っているのが重要ではなく、その中にどういう風味の個性が入っているかが重要です。

_なるほど。コーヒー豆は農作物とおっしゃっていましたが、やはり輸送状態によっては味の劣化などもあるのでしょうか?

N:もちろんあります。よく「心臓病、脳卒中、がんなどのリスクが低くなる」とか「ポリフェノールが豊富に含まれているので身体に良い」などと言われたりしますが、そのためには生産地での新鮮な状態をいかに持続させるかということが大切になってくると思います。
たとえば一般的に日本に輸入される豆は船でドライコンテナに積み、常温で運ばれます。赤道に近い生産地から長い期間をかけて高温多湿の室内に閉じ込められているのです。
コーヒーも農作物ですから……野菜なら腐りますよね?

_『EBONY COFFEE』さんはその輸送問題に対してどのようにされているのでしょうか?

N:当店は、スペシャルティコーヒーのパイオニア、堀口俊英氏(堀口珈琲代表取締役会長)が主宰するリーディング・コーヒー・ファミリー(LCF)という団体に加盟しております。LCFはコーヒーの栽培から精製に至るまでのプロセスを、生産者とパートナーシップを築くことにより、最高品質の希少なスペシャルティコーヒーを追求しているグループです。LCF専用に栽培精製された豆を中心に、独自のルートで生豆を確保しています。そしてリーファーコンテナ(温度コントロールが可能なコンテナ)の使用や、バキュームパックという真空パックでのパッケージ輸送などを行い、品質保持のためにも可能なかぎり全力を尽くしています。

 

_なるべく今旬の高品質な豆を世界中から探し、現地と変わらない状態で仕入れることにこだわっているのですね。『EBONY COFFEE』に来れば最高品質のコーヒー豆が買える。

N:はい、そうですね。お客様からよく「お店に入った時の香りが全然違いますね」と言われます。その時最も良質な生豆を見極め、劣化臭のない状態でご提供します。そのため旬の野菜や果物と同じように、豆のラインナップも定期的に変えていますね。

_今回のコラボレーションもそうですが、ブレンドもその質が高い豆を組み合わせるのですね。

N:じつは高品質な生豆を仕入れるのは、最高のブレンドを作るためでもあります。私たちがブレンドづくりに対して最も大切にしているのは「目指した香味をブレなく表現する」ことです。
古くからブレンドといえば、ブルマンブレンドやエメラルドマウンテンブレンドなど、ベースとなる生産地の豆を決めて、そこに別の豆を加えていく方法がありました。
ただ、農作物であるコーヒー豆は、季節によって味が変化しますので、同じ豆を使い続けると味もブレてしまいますよね。なので、私たちは最初にどういう香味にするかを定め、それを作るための豆を季節ごとに吟味し、変わらない安定した味を提供することに努めています。なので、その時によってブレンドする豆はさまざまです。



_変わらない味を提供するには毎回の試行錯誤が必要なんですね。

N:そうです。作りたい味を細かくレシピづけしており、たとえば、粉の香りやお湯を注いだ液体の香り、口に含んだ時の第一印象、余韻、甘味、酸味、苦味など。またボディと言われるコクや粘性、クリーンさ。これらのバランスを考えて旬のスペシャルティコーヒーをうまく調合しながら通年ブレのない味を作り続けるよう努めています。

_先に出したい味を決め、逆算してどの豆を使ってどう調合するかを決める……難しそうですね。

N:そうですね。でもそこがコーヒー屋の醍醐味であり、重要な仕事だと思っています。そのため常に味覚訓練で経験を積んでいます。旬の豆の香味を知り、どれを組み合わせるとどういう香味になるかをイメージしていきます。焙煎の時間もその時の豆の味や状態を確認して調整していきます。
よく「ブレンドはマイルドになって味がぼやける」と思う方もいらっしゃいますが、「それぞれの豆の良い個性を活かし補い合う」というのが当店のブレンドのコンセプトです。

 Special Interview後編はこちら>

 

『EBONY COFFEE』
2011年開業。世界に5%程度しか流通していないスペシャルティコーヒーの中でも、ハイエンドの品質の豆のみを取り扱うスペシャルティコーヒー専門店。「最高の一杯」のために、最高品質の素材(生豆)を厳選し、輸送や管理にも徹底的に配慮、日々の異なる気象条件に適したローストで、理想の香味を実現しています。コーヒーの各種セミナーや、飲食店等への卸売販売も拡大中です。

東京都世田谷区奥沢6-28-4 ワイズニール自由が丘1F
TEL:03-3702-2027
OPEN:11:00~20:00
定休日:水曜(ただし水曜が祝日の場合は営業)


Edit:Takafumi Matsushita
Photograph:Taku Amano

 

ヒビノ×EBONY COFFEE オリジナル・コーヒー

ご購入はこちら>