PAマンのひとりごと
vol.02 音づくりの現場から

こんにちは。PAマンの小野です。第2回はPAの仕事の中身にまつわるお話ができればと思います。

リアルタイムで伝える仕事だからこそ
失敗は許されない

PAはPublic Address(パブリックアドレス)の略称で、日本語では「大衆伝達」を意味しています。要するにたくさんの人に情報を伝える仕事なんですよ。アーティストの表現したい音楽を、一度に大勢の人間に、リアルタイムで正確に伝える。このリアルタイムというのが大きいのです。たとえばレコーディングミキサーであれば、録音した音源をスタジオに持っていって、一生懸命一晩かけて、ああでもない、こうでもないと手を加えて、バランスを考えながら作る、それが CD という完成品になるわけです。でも PAはその場限りの仕事だから、やり直しはない。非常に緊張感はあるけれど、逆にそういうところが楽しさでもあります。

もちろん人間だからまったく失敗しない、というのは難しい。だから周囲に気づかれないようにする技術を持つのも、PAに必要な要素ですね。PAは経験を積む過程で機械の特性を知り尽くすようになり、非常時にはとっさの判断で、機械を応用して使うことができるようになるんです。

私自身、かつてこんな失敗がありました。あるヴォーカリストのツアーでテレフォンという歌詞にエフェクトを掛けてテレフォン テレフォン テレフォン♪ と余韻を残し、その間にシーンチェンジをする演出がありました。当時はテープエコーという、録音テープが回転してその効果を出す機械で操作をしていました。しかしある日 いつものようにエフェクトをかけようとしたところ、なんということでしょう。カラカラと音がしてそちらを見ると、テープが切れて空回り!
 とっさに「ヤバい! 演出が台なし!」と思い、無意識にReverb (リバーブ)という機械のタイムを最大に。フェーダーの上げ下げでテープエコー効果を出すことで、ことなきを得たという体験をしました。思い出すとゾッとするようなハプニングでしたが、今はデジタルの機械なのでこのようなことは起こりませんのでご安心を(笑)。


公演前の準備。大勢のスタッフが忙しく走り回ります。

三人一組で構成されるPAチーム
その役割とは?

基本、PAは3人1チームで仕事をします。アリーナやドームといった会場の規模が大きくなると、ケアする面積も増えていくので、チーム数も増加していきますが、三人一組の単位は変わりません。


3人の役割についてご説明しましょう。まず新人や経験の浅いメンバーがPAアシスタントです。業界的には「3人目」と呼びます。仕事としてはマイクを立てたり、ケーブルを巻いたりといった雑用を一通り担当します。アシスタントの仕事は毎日やっていればすぐ覚えられるので、次のステップを常に意識しながら、仕事をする必要があります。ステージ上のミキサーの人がその3人目を使ってバランスを作っていくのですが、場合によってはミキサーの人がステージに行き、3人目を卓のところに行かせて、作業を指示します。そうやって次のステップである卓を覚えて、2人目の仕事を理解していく。2番目の人が来られなくなったときに「やってみろ」と言われて、そのままスムーズに仕事ができれば、2人目としてデビューできる人もいます。

ナンバー2はモニターミキサー、またはモニターマン。人によりますが、この2人目になれるまで3年ほどかかります。2人目はアーティストとやり取りをする仕事。ステージでアーティストに聞かせる音をつくる人です。
アーティストとのコミュニケーションをいかに取るかが問われ、一番の正念場と言えるでしょう。一般教養や常識といったものがより求められるようになります。

通常、コンサートが始まる前は2、3週間スタジオでリハーサルが行われます。すると、音響関係でもいろいろな問題が発生する。モニターマンは直接アーティストとやり取りします。その中で音響理論などを交えて、相手を納得させることができるようになっていって、信頼関係が構築されます。さらにライブ会場となる大きな空間で音を出すと、当然そこでもいろいろなことが起こります。しかしアーティストとの信頼関係がすでにできているので、さらに会話を重ねることで、よりよい音響に仕上げていけるのです。



最後の一人はPAマン、PAミキサー。コンサート音響の全体を統括する役割です。2人目からPAマンになるには、5年はかかると言われています。PAマンはコンサートに来ているお客様とアーティストを満足させるのはもちろん、アーティストにサウンドプロデューサーがついている場合は、そのプロデューサーも納得させる必要があります。彼らを納得させると、その人を信頼しているアーティストは一切こちらのことを疑わなくなってくる。

そしてPAマンは音だけを考えてコンサートをやってはいけない、というのが持論です。「いい音だった」と言われるのではなく、アーティストと照明などの他セクションと息を合わせて、「いいコンサートだった」と全体を評価してもらえるように力を尽くしています。


PAマンの卓。ここが一番落ち着く場所(笑)。

大切なのは自分の軸を持って
バランスを考えること

今はライブの感想をSNSで上げる時代になりました。しかしそれらの意見に流されてしまうと、自分の中で迷いが出やすい。私も「こう書かれたからこうしよう」と間違ったことをしてしまったことがあって、やはり冷静でないとダメだということを実感。でもしっかりしたアーティストは、現場のことを理解している。私もアーティスト自身から「そういうのには惑わされない方がいい」とアドバイスを受けたことがあります。大勢のお客さんのためにいい音を作らないといけないのに、作る本人の気持ちが定まっていないと、何が何だか分からなくなる。それは絶対やってはいけないことだと思います。


ステージを見たお客さんが感動して泣いたり笑顔になったり……。そんな姿を見ることができた瞬間、この仕事のやりがいをひしひしと感じます。

私の座右の銘は「バランス」という言葉。たとえばミキシングするのに1つの音だけ気にしていると他のものがおろそかになるから、全体のバランスを考えながら作っていかなくてはいけません。あとはアーティストから抽象的なオーダーを受けて、自分で方法を考えなくてはいけない時。コンサート全体のことを考えて、最良の答えを探す過程で、バランスの大切さを実感します。

バランス感覚は生き方においても重要です。ハードワークばかりして体を壊したらバランス悪いですし。たまにはうまく力を抜いて体調を整え、また一生懸命やる。そのバランス感をつねに持ち続けないといけないな、と改めて思います。

※リバーブ:鳴ったオリジナル音に対する反射音を生成し残響をつくるエフェクターのこと

次回は、今や年に何度も開催されるようになった大型フェスについて。大規模な会場ではPAにどんな苦労があるのか。どういう工夫で乗り越えているか、などをお話したいと思います。お楽しみに!

■PAマンのひとりごと
vol.01 はじめまして小野です
vol.02 音づくりの現場から


小野 良行 ヒビノ株式会社 サウンドシステムデザイナー

1976年にヒビノ電気音響株式会社(現ヒビノ株式会社)入社。
コンサート音響部門に所属し、数々の海外アーティストを手がけ、国内アーティストのツアーにも多数参加。ライブのサウンドエンジニアとして、56アーティストのチーフエンジニアを担当するなど活躍。現在は、大規模なイベントプロジェクトの音響を受け持ちながら、後任の育成などを担当している。